不肖小生、あまり山小屋は得意ではない。
まず、お金が無い、、、
でも本当の理由は、団体での生活が苦手なのである。
これは、子供のときから最大の弱点なのである。
そんな不肖小生が山小屋に泊まることになると、それはもうチョットした緊張
ものなのである。
そこには、知らない人がいっぱいいて、こんな不肖小生が彼らにマナー違反な
どで迷惑や嫌な思いをさせないだろうか・・・
いつもドキドキもので「同泊、よろしくお願いしま〜す！」なのである。
いつもサッサと食事をし、山自慢の話にも相槌と感嘆を表し、布団に入れば息
を殺し、起きる時は泥棒も真っ青もの・・・
とにかく、団体生活ダメ人間は、気を使うのである。
先日、標高２７００ｍのマンモス小屋に泊まったときのことである。
強風のため天幕張るのをやめ、素泊まりをお願いした。
自炊場所を聞いたところ、小屋受付のある土間（コンクリートではあるが）を
指定された。
先ずは、水の確保。小屋番さんは、「スイマセンが、水は表の水場で願います」
強風吹きすさぶ中、レインコートを着こんで、雪渓まで水を汲みに行った。
山で水は貴重なもの。これはアタリマエなのである。
足の匂ってくる下駄箱前のタタキに腰を下ろし、食事の準備をしていると、自
炊組の人たちが続々と集まってきた。
先ずは配置であるが、裏口ドアを奥にして不肖小生がタタキに座る。
続いて、息子が大学生という高年ご夫婦（小生の隣に奥さんが座り、ご主人は
立っている）
その隣は、悪天で天場を逃げてきた大学ワンゲル四人組、そしてスノコに座る
オバサマ団体炊事班。
そして物語は、静かに始まった・・・
高年ご夫婦がラーメンを食している。なんと、奥様がドッカとタタキに座り、
ご亭主が立ったまま麺を頬張っている。
それではご主人があまりにも可愛そう・・・不肖小生は、荷物を整理し、一人
分のスペースを作ってあげた。奥様はチラッとその隙間を見た。
「あら、どうもありがとう。あんた、ここ座んなさいよ。」という聞えるかと
思った。
しかし現実は違った…
次の瞬間、奥様の大きなお尻がズリズリと小生の方へ寄ってきた。そして、小
生の反対側に出来たスペースに他の食材やゴミや鍋などを広げ出したのである。
おいおい、そんなもん、足元にでもおいて旦那を座らせてあげなよ…
我が隊から一番遠いオバサマ団体炊事班が自炊の準備に入った。
なんとストーブが並ぶは並ぶ、五台直列。ナベや食材がワンサカと広げられる。
見てみるとラーメン担当、パック餅茹で担当、スープ担当、めざし担当・・・
これらを喋りながら調理するものだから、賑やかニギヤカ。「メザシこれで焼
けてるわよね」「ちょっと、箸とってくれない」・・・・
「あら、水が足りないわね。」「あ、いいわよ、アタシとってくるから」
そして彼女は、近くの洗面所に駆込んで行った。
・・・・・ん？…ん、ん？…んんんん！？
おい、水は水場じゃねえのかよ！おいおい、オバハン帰ってきたよ。２Lポリタ
ンに満杯の水・・・あ、おまえらそこに並んでいる６Ｌ以上の水どうしたんだよ。
全部洗面所から持ってきたのかヨ！
さすがワンゲル部は、楽しそうに炊事にとりかかっている。
人参、玉ねぎ、ウインナー、ベーコン・・・
スゲー、きっと部伝統のポトフなんだろーなー。
そこに、高年ご夫婦奥様が口を出し始めた。
「あらあら、それじゃダメよ。」「ニンジンから先に茹でて・・・」
仕切るは仕切る。それもそのはず、息子にあたる年代の男の子が心もとない手つきで調理して
いるので、黙ってはいられないのだ。
しかし、ワンゲル部にとってはいい迷惑。うるさい親と離れて、気の置けない
仲間との楽しい自炊のひととき・・・の、はずだったろうに。
旦那様は、立ったまま苦笑している・・・
ああ、あ、奥様、包丁取り上げて自分で切りだしちゃったよ。
ほっといてやれよ〜
その時、遠くから悲鳴が聞えてくる。
「キャァ〜！！」
なんと、オバサマ団体炊事班のラーメン担当が煮えたぎるナベをひっくり返したのである！阿鼻叫喚！
熱湯は、コンクリートの土間を音もなく広がるヒロガル・・・
「ウォアッチ〜！」
なんとその熱湯は、しおらしいワンゲル君のサンダル履きの足を、背後から的確に浸したのである。熱湯で濡れた靴下では、たまったものではない。
彼は、○○大学診療所に直行・・・可愛そうに・・・。
もちろんラーメン担当者は、無傷ムキズ。
いったい、なんなんだ、この環境は！ここは標高２７００ｍ・・・
すると突然、突風が不肖小生を襲う。
突風？
なんと酔っ払ったオヤジが、裏口のドアを空けて入ってきたのである。
そして、そして、、、あろうことか、ドアを開け放ちたまま奥へ入って行くで
はないか！
寒風吹きすさぶ自炊エリア・・・
あ〜、団体生活が苦手な不肖小生の心の中に、ムクムクと沸き立つ何かを感じ
るのである。
「おい！オッサン！ドア閉めろよ！！（恕）」
もう、こんなとこイヤなので、ソソクサとコッヘル畳んで部屋に帰ることにす
る。
高年ご夫婦奥様が広げたゴミと食材をまたぎ、ワンゲル部をかき分けて洗面所の前を通る。
「キャハハハ！」
「ん！？」
なんとその洗面所では、オバサマ団体炊事班が小屋の水を使って食器を洗っているではないか！！小屋の水をだぞ〜！しょ、食器をだぞ〜！
沸き立ってしまったムクムクにまかせて、思いっきり怒鳴って水場の場所を教えたろーと思った瞬間！
「ねぇ〜、生ゴミは何処に捨てるのぉ？」
「プッシュ〜〜〜ゥ………」（ムクムク君のしぼむ音）
標高２７００ｍ・・・
１０００人は泊まれるマンモス小屋に、タバコをゆっくりとく
ゆらす不肖小生がいた・・・・
明日は風が止むだろうか・・・
2000年7月29日